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風のない九月の曇天のことだった。 [Asia]

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午前の授業が退けると食堂に殺到する学生群を避けて、文革時代に辛うじて破壊されることを免れたような古いレンガ造りの店で食事をすることがあった。洒落て云えばテラスということになるのだろうが、お洒落もへったくれもない、勝手に歩道に安物のテーブルと椅子を用意して麺類やら炒め物を食わせる店である。格安で量も多く、これはあの国では習慣的なことだが、食べ切れなかった分は持ち帰ると云えば発泡スチロールの容器を渡してくれるから、自分で詰め替えて持ち帰ることも出来る。ああ云った店は殆んどが個人経営店だから、融通が利くし、顔見知りになると色んな話をしてくるから、いつでも冷えた青島や燕京を用意していてくれるようになるのである。
今日も女主人が寸胴を前にして麺の茹で具合を瞠っている。九月の曇天だと云うのに、シャツ一枚である。左の卓には四五人固まって麺を啜っているが、彼ら全員が職場の同僚とは限らない。この国では席が空いてなければお構いなしに相席になる習慣なのだから、もしかしたら全員見知らぬ他人ということも有り得る。然し、これも面白いことに、見知らぬ他人であっても彼らは何やかやと会話を始め、宛ら古い馴染みのように見えることもあるのだ。右端の仲間内の卓では昼間から青島を開けている。流石に飲酒をした直後の勤務は不味いだろうから、午後は非番なのかもしれない。運よく今まで盗まれなかった自転車には、やはりどれも鍵が掛けられている。こちらを見ている二人の男がいるが、二人は同時に鍵の掛け忘れがなかったか不安になったのだろうか。
否、俺が一枚撮る為にもたもたしていると後ろからクラクションの連打が鳴り響いた。お構いなしにカメラを構えている間に、後方では渋滞が起ころうとしていたのだった。それぞれが前の者に対してクラクションを鳴らすものだから、蛙の大合唱ならぬ、クラクションのそれが起こっていた。

タグ:写真
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